対話を重視してリノベーションした氷見市新市庁舎

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金沢市の小中一貫英語教育に続いて、視察に訪問したのは富山県氷見市の新市庁舎。2014年5月に新しくオープンした氷見市新市庁舎は2つの点で注目しました。1つは既存の施設を用途変更(コンバージョン)し、空間を再設計(リノベーション)して誕生した庁舎ということ。もう1つはこれからの市政運営に対話を重視するという姿勢を明確にし、それが庁舎の設計や人事に色濃く反映していること。

人口減少社会と厳しい自治体財政という2つの課題に直面している日本にとって、これからは縮退の時代であることを明確に意識する必要があると私は常々、考えています。縮退は別に悪い話ではなく、今ある既存の社会資本をいかにうまく使いこなしていくか、大量生産大量消費だった時代と比べて、むしろ豊かな時代に突入していくのだと私は理解しています。

氷見市新市庁舎は旧有磯高校体育館をコンバージョン&リノベーションして誕生したものです。では、なぜ氷見市は体育館のコンバージョン&リノベーションによる新市庁舎の実現という選択肢を取ったのでしょうか。

氷見市が新市庁舎への移転を決めたのは、平成23年度に行った耐震診断調査の結果でした。震度6強クラスの地震に対して、建物の崩壊・倒壊の危険性が高いことが判明したのです。新市庁舎の整備に当たっては、(1)旧庁舎を耐震補強、(2)旧庁舎の所在地での新築・建替え、(3)現在地(新市庁舎所在地)での新築、(4)旧有磯高校校舎を改修して再利用、(5)旧有磯高校体育館を改修して再利用、など様々な案が検討されました。

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検討に当たって、氷見市は市財政負担を考慮し、既存の建物を改修・再利用することで整備に要する初期投資を極力低減することを重視しました。あわせて、防災拠点施設としての機能強化を図る必要があり、津波浸水想定区域を避けること、市民病院など他機関との連携や災害時における幹線道路網へのアクセスなどを考慮した結果、「旧有磯高校体育館の改修・再利用」つまり、コンバージョン&リノベーションが整備方針として決まりました。

実際に新市庁舎を見学させてもらいますと、そこかしかにリノベーションによる工夫の跡が残っていました。例えば、こちら。説明に動向して下さった総務部財政課の鎌仲さんが手に持っているのは、旧有磯高校の黒板です。

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そして、こちらは廊下に設置されていたベンチ。こちらは高校の階段にあった木製の手すりを市職員がDIYでベンチにしたそうです。何気ないことですが、こうした工夫は極めて大事なことだと私は思います。学校という場所は思い出がぎゅっと詰まった場所です。その高校が市役所に生まれ変わっても、ベンチや案内サインなど様々な形でその痕跡をとどめていると、きっと卒業生も市役所に足を運んでみようかな、という気になるでしょう。後述しますが、市民との対話を重視した市政運営を打ち出している氷見市にとって、卒業生や保護者が足を運びたくなる仕掛けがあることに、大きな意味があります。

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体育館を庁舎として転用しているので、床についてもご覧の通り。なるべくお金をかけずに庁舎に転用しようとした工夫の跡が、この床にぎゅっと凝縮されていると私は感じました。実は新市庁舎の整備に当たって、氷見市は市民との対話を大切にしたといいます。「デザインワークショップ」で市民とともに創りました。対話とコミュニケーション、アイディアが生まれる工夫が随所に。

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こうしたワークショップ用のワゴンが庁舎内に自然に配置されているのも、大変印象的でした。氷見市が対話を重視した市政運営に舵を切ったのは、本川市長の登場による影響が大変大きいと言えます。本川市長が誕生したのは2013年4月。この時点で、氷見新市庁舎については急有磯高校体育館への移転は決まっており、基本設計も済んでいたとのこと。

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市民との対話を重視した本川市長は新市庁舎の実施設計にもその考えを反映させました。

私も常々、これからの時代、行政における意思決定のあり方、施策の打ち出し方は変わらざるを得ないと議会で訴え続けてきました。政策形成のあり方は行政が全部やる時代から、企業やNPO、市民を巻き込んでお互いが少しずつリソースを出し合ってもらう時代になっていくと訴えているところです。数年来、私たちがオープンデータを議会で取り上げてきたのも、行政と市民が対等に議論するためには、情報が等しく行き渡っている必要があると考えるから、です。(議会をフューチャーセンターに新しい政策形成のあり方【欧州視察】庁内フューチャーセンターとしてのmindlab合意形成としてのフューチャーセンターとオープンデータ)今回の視察で一緒だった川崎の小田市議や相模原の五十嵐市議は、こうした取り組みが今後重要になるとの問題意識を共有している議員です。

少し話がそれましたが、フューチャーセンターの設置、対話の積極的な推進を具体的に実行の移した市長が日本に誕生したことの意味は大きいと今回、視察で氷見市を訪問して改めて感じました。

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もちろん、新しい取り組みですから、戸惑いや反発もあるかもしれません。人はどうしても変わることに対して身構えてしまうものです。ただ確実に言えることは、今までと同じやり方の先に未来は描けないですし、行政がすべて計画して実行する時代は終わったということです。それだけの余裕はもう、ありません。民主党政権時代に「新しい公共」や「熟議」といったフレーズが次々と登場したのは、時代が変わった証左とも言えます。今は反対している人、身構えている人たちの中から、たった一人でも本気の人が現れたとき、本当に意味で氷見市が大きく変わる時なのかもしれないと私は感じました。

昨年、欧州を訪問し、フューチャーセンターの取り組みをこの目で見てきて、改めてこれからの行政のあり方は対話をベースにした政策設計だと意を強くしたところでもあります。氷見市は日本において、その一歩先をいっているのだと思います。もしかしたら、今もなお、一部の職員、一部の市民の間には戸惑いや抵抗があるかもしれませんが、これらはいずれ時間が解決する問題です。丁寧な対話の先には、必ず穏やかな未来が待っていることでしょう。

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私たちが訪問した日、平日でしたが、氷見市役所でフューチャーセッションが行われていました。氷見市の防災について市職員と市民の対話。

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さて、これから注目したいたのは、人材育成と評価です。フューチャーセッションのポイントは、「適切な問いを立てること」です。合わせて、その問いへの対話に適切な人を巻き込むこと。この2つが非常に重要です。ですから、それらができる人材、つまりファシリテーターをどう育成していくのか。市役所内でインハウスで育てるのか、それとも外部から人を呼んでくるのか、あるいはそのハイブリッドにするのか。去年訪問したデンマークの省庁は外部から招聘し、公務員として任期付で採用してしまうという手法を採用していました。

本川市長はまだ当選して1年。大変若く、エネルギー溢れる方でしたので、この先、2期、3期は市長を務めることになるでしょう。大事なことは、本川氏が市長在任中に、フューチャーセッションという対話をベースにした政策立案のプロセスと人材育成、人事評価を仕組みにしてしまうことではないでしょうか。市長がいなくなった後、元に戻ってしまったでは大変もったない。そういう意味で、氷見市で始まったチャレンジは、地方自治にとって非常に大きな意味を持つチャレンジだと私は思います。これからも、機会を見つけて勉強させて頂きたいと思っています。

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最後に。横浜でもフューチャーセッションを導入したいと思っています。平成25年度、26年度と政策局で少しずつ導入が始まっています。しかし、まだまだ。この小さな芽を潰さないように、しっかりと育てていきたいと思います。それと、確かに組織の規模が氷見市と横浜市では違い過ぎます。横浜市で全庁挙げてフューチャーセッションを導入するといっても、さすがにそれは無理があります。特定の局で小さく生んでスタートさせるというのが横浜の目指すべき道です。

それは政策局かもしれないし、都市整備局かもしれませんし、文化観光局かもしれません。対話から生まれる政策は気持ちいい、という体験を一人でも多くの職員に味わってもらうことが近道だと思っています。私は私で、今はまだ明かせませんが、ネタを仕込みつつあります。近い将来、みなさまにもご報告できる日を楽しみにしています。

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